~ボルドーグレージュが出来るまで~ きっかけ篇
壁・天井の内装材。なんと言っても日本国内の住宅では、圧倒的に壁紙が採用されています。
今でこそ、素材の選択肢も豊富になってきていますが、やはり壁紙が主流です。
その一方で、自然素材を積極的に採用している先では、木質パネルを採用することは、当然のように行われています。
しかしながら、そうした会社さんの悩み事は、木質パネルの選択肢が少ないこと。
フローリングは樹種・サイズ・デザイン・カラーバリエーション、仕上げなど、その種類はとても豊富で、多岐に渡る選択肢があるのに、壁・天井の木質パネルとなると一気に選択肢がなくなってしまうのが実情です。
この木質パネル材、現状一般的に使われているのがレッドシダー、パインの2種。ほぼこの2種と言っても過言ではありません。
フローリングでは圧倒的に使われているオーク材でも、壁・天井材として使われるケースはとても少ないのです。
レッドシダー、あるいはパイン材という流れは、今に始まったことではなく、かなり長く業界のスタンダード的仕様です。
材の見附幅の違いや、張り方などに違いはあれど、どれも比較的似たようなテイスト。
そんな折、内装パネルにレッドシダーを主に使われていたお客様から、「レッドシダーもいいけれど、正直ワンパターン。何か他の新しいパネル材提案して欲しい…。でも、当然無垢材でかつコストもレッドシダー同等でね!」
という難しい宿題を頂きました。
レッドシダーに代わるパネル材。でも、高級品じゃなくて…。
かと言って、安いパイン材や杉材というテイストではなく…。
シンプルなリクエストですが、かなりハードルが高い。
長い間、レッドシダーが使われてきているのは、これまで他に魅力的な選択肢が見つからなかったからとも言えます。
マテリアルワールドでは、テキサスロックンウォールやテキサスショートキューブなど、アクセントウォール素材としてインパクトのあるアイテムがあります。でも、これらは天井にはあまり適さないですし、あくまでアクセント使いが主流です。
エコカラットに代表されるように、一部のアクセント素材は他にも幾つか選択肢はあるのですが、壁・天井に広い面積で使えるようなシンプル・ベーシックなパネル材はなかなか無い。
前回のブログでも触れましたが、僕自身20年以上この業界で様々な木材を見てきています。この話が簡単ではないことは十分に理解していました。
その日以来、頭の片隅にいつも気に留めながらも、そう簡単に安価で魅力的な素材が見つかる訳もなく、悶々とした日々を送っていました。
そんな時に、まったく別の案件で新木場にある木材会社さんを紹介されていて、ある日その新木場の倉庫で、デッキ材の打合せをしていました。
大抵、どの樹種の木デッキ材であっても、経年変化で最終的にはシルバーグレーになります。
当日、僕の目に飛び込んできたのはやはりそこにあるシルバーグレーに変色したデッキ材でした。
ですが、そのデッキ材は、シルバーグレーに変色しているものの、あまり痛んだ形跡がなく、ラスティックな風合いを感じさせないものでした。
「この材料は何ですか?」
「メルパウです。」
あまり一般的には聞き慣れない樹種ですが、南洋材の一種。
この会社さんでは、メルパウを用いてデッキ材を製造販売しておられました。
聞けば、寸法安定性も高く、灰汁がほとんど出ず、表面のササクレや毛羽立ちも少ない。
デッキ材は木材から染み出る灰汁、経年変化での反り、ねじれ、割れなどがしばしば起こるので、木材の特性を予め良く理解して注意して採用しなければなりません。
デッキ材として、ジャラ、セランガンバツ、アイアンウッド、イペ、ビリアンなどが有名ですが、そのどれもが共通してその特性があります。
しかし、このメルパウのデッキ材はそれがほとんどない。
なるほど、それは優れたデッキ材。
でも、「シルバーグレーに退色するスピードが他の樹種に比べて速いのがデメリットなんです。」と…。
シルバーグレーに退色したデッキ材を眺めながら、その言葉を聞いて、僕は雷に打たれます。(笑)
次回へ。